ヒットを打てたらバットを買う約束。その後に悩んだ、親の声かけのこと 〜野球ママのリアルな体験記〜
「ヒットを打てたら、新しいバットが欲しい」
ある日、子どもからそう言われました。
正直、すぐに「いいよ」と言えたわけではありませんでした。
道具を買うことで、本当にやる気につながるのか。
それとも、物が目的になってしまわないか。
「欲しいから頑張る」という気持ちが、その場限りのものになってしまわないか。
親として、いろいろな考えが頭の中をぐるぐるしました。
ただ今回は、本人からの申し出だったこと、そして「結果を出したら」という条件付きだったこともあり、悩んだ末に「いいよ」と約束しました。
親としても、少し覚悟を決めた瞬間でした。
すると次の練習試合で、まさかのスリーベースヒット。
それまで、家でもバッティングの練習を頑張っていた姿をそばで見ていたので、驚きと同時に、素直に嬉しい気持ちになりました。
「やっぱり、努力って結果につながるんやな」
そんなふうに感じて、親としても誇らしい気持ちになったのを覚えています。
約束通り、新しいバットを用意しました。
子どもはとても喜んでいて、何度もバットを手に取っては眺めていました。
その姿を見て、「思い切って約束してよかったのかもしれない」そんなふうに思っていました。
ただ、その気持ちは長くは続きませんでした。
バットを手に入れてから、2週間ほど経った頃。
それまで続いていた素振りやバッティング練習を、ほとんどしなくなったのです。
正直、モヤっとしました。
「え? あんなに頑張ってたのに?」
「バット、欲しかったんちゃうん?」
期待していた分だけ、気持ちが追いつかない自分もいました。
そして、親なら一度は口にしてしまいそうな言葉が、喉まで出かかります。
「バット買ったんやから、もっと練習しなさいよ」
きっと、同じような経験をした野球ママは少なくないと思います。
私自身も、これまでなら間違いなくその言葉を口にしていたと思います。
でも、その時は少し立ち止まりました。
ここでこの一言を言ってしまったら、野球が「楽しいもの」ではなく、「やらなきゃいけないもの」になってしまうかもしれない。
そんな気がしたからです。
親の期待が、知らないうちにプレッシャーになってしまうこと。
それが一番怖かったのかもしれません。
そこで、こんなふうに声をかけてみました。
「最近、バット触ってないけど、どう思ってるん?」
責めるつもりはなかったものの、内心は正直ドキドキしていました。
このまま野球への気持ちが冷めてしまっていたらどうしよう。
約束の仕方、間違えたかな。
そんな不安も頭をよぎりました。
すると、子どもは少し考えてから、「別に嫌いになったわけじゃない」と言いました。
それを聞いて、私はこう返しました。
「そうなんやね。ありがとう。ママに手伝えることあったら、また言ってね」
それ以上、深くは踏み込みませんでした。
正直、言いたいことが全くなかったわけではありません。
でも、その日はあえて、子どもの言葉を受け止めるだけにしました。
正直に言うと、「何もしないで待つ」という選択は、親にとってなかなかしんどいものです
。
つい先回りしたくなるし、正しい方向に導いてあげたくもなります。
それでも今回は、子どもの気持ちを、子ども自身に任せてみようと思いました。
親ができるのは、環境を整えて待つことだけなのかもしれない。
そう思ったからです。
すると、少し時間が経ったある日、子どもの方からこんな言葉が出てきました。
「バッティングしたいから、シャトルでトスお願い」
その一言を聞いたとき、「あ、今はこれでよかったんやな」と感じました。
親が無理に引っ張らなくても、本人の中でタイミングが来ることもある。
そう教えてもらった気がしました。
親が練習メニューを決めたわけでも、無理にやらせたわけでもありません。
ただ、選択肢を子どもに渡しただけでした。
このやり方が正解かどうかは、正直分かりません。
家庭ごとに、子どもごとに、答えは違うと思います。
今でも私自身、声かけに迷うことはたくさんあります。
それでも、「やらせる」より「聞いてみる」。
「期待を押し付ける」より「気持ちを受け止める」。
そうすることで、子どもが自分のタイミングで前を向くこともあるんだと、この出来事を通して感じました。
親ができることは、答えを出すことより、子どもが自分で動き出すまで待つことなのかもしれません。
この経験は、そう感じるきっかけになりました。