アタリメを買わされる父。小6男子の野球と、少しだけ出てきた色気の話
ただ、野球を始めてから、次男に頼まれる買い物が、少しずつ変わってきました。親の役割というのは、子どもの成長に合わせて、少しずつ更新されていくのだと思います。気づかないうちに。
最近よく言われるのが、これです。
「アタリメ買ってきて」
理由は特に説明されません。用件だけ、LINEで飛んできます。絵文字もありません。男子小学生のLINEの潔さは、いっそ気持ちがいいくらいです。
少し前までは、お菓子のリクエストといえば、もっと分かりやすいものでした。ポテトチップス、グミ、チョコ、あとは流行りのアイス。小学生男子の王道ラインナップです。スーパーのお菓子売り場に行けば、答えが全部そこにあるはずの、安全な買い物でした。
それが、6年生になった途端、アタリメです。酒のつまみです。
本人いわく、「カロリーが低いから」だそうです。小学生男子の選択肢としては、なかなか渋いところに踏み込んできたな、と思いました。もう、ほぼ大人の棚です。
最近、近所のスーパーで、安いアタリメがよく売り切れています。もし同じ地域のどなたかが「最近うちの近くでアタリメが見つからない」と感じていたら、たぶん少しだけ、我が家も関係しています。買いに行っているのは私ですが、発注元は次男です。申し訳ありません。
最初は、野球の影響なのかと思いました。
6年生になって、4番を打っているらしく、ポジションはピッチャーかサード、おまけに副キャプテンでもあるらしい。 本人なりに、体のキレを意識し始めたのかもしれない。食べ物を少し見直したくなったのかもしれない。そんなふうに解釈しました。父親としては、そう解釈したかったとも言えます。父親の願望が混ざっていました。
でも、しばらく観察していて、気づきました。
たぶん、野球だけではないのです。
少し、色気が出てきたのです。
本人に聞くと、絶対に認めません。
「は?ちげえし」で終わります。我が家の6年生は、そういう返しの性能だけは、やたら高いのです。
それでも、兆候はあります。 「これ食べたら太るかな」と軽く言うようになった。鏡の前にいる時間が、ほんの少し伸びた。風呂上がりの髪を、前はタオルで雑にふいていたのに、最近は自分でちょっと整えている。前は平気で家の中を半裸でうろついていたのに、最近はちゃんと服を着てから部屋を出るようになった。どれも決定打ではありません。でも、積み重ねると、明らかに前とは違うのです。
そのわりに、アタリメをかじった直後に、普通にアイスを食べていたりもします。せっかくカロリーを気にしてアタリメを選んでいるのに、その努力が一瞬で打ち消されてしまいます。本人の中でも整理がついていない気がします。
ただ、その一貫しなさも含めて、いかにも今の年齢という感じがします。子どもから大人に、ある日いきなり切り替わるわけではないのです。昨日までのお菓子好きの自分と、今日のちょっと見た目を気にし始めた自分が、同じ体の中に、しばらく同居している。本人にとっては、それが自然な移行期なのだと思います。
野球をしているから、体を気にする。
チームメイトや周りの目があるから、見た目を気にする。
少しだけ背伸びしたいから、甘いお菓子じゃなくて、渋いものを選んでみる。
本人の中でも、理由はたぶん一つではありません。
親としては、つい理由をはっきりさせたくなります。でも、次男はそこまで説明してくれません。「買ってきて」と言うだけです。こちらは仕事帰りにスーパーに寄り、アタリメの棚の前で、安いほうと高いほうをしばらく見比べる。グローブやバットに比べればずっと安いのに、なぜか妙に生活感のある出費です。レジのおじさんに、たまに目で会話されている気がします。「お父さん、毎回ですね」くらいの視線を感じる日もあります。
こういう小さな買い物にも、子どもの変化はちゃんと出るのだな、と思います。
身長が伸びた、試合で打った、大会で勝った——そういう分かりやすい成長ではありません。でも、買ってほしいものが変わる。食べるものを少し選ぶ。体や見た目を気にする。そういう目立たないところにも、成長は顔を出します。父親が気づけるのは、むしろそっちのほうが早いのかもしれません。
私は、グラウンドで次男の野球を細かく見ている父親ではありません。
でも、コンビニやスーパーの棚の前で、次男の変化に先に気づくことがあります。それはそれで、悪くない持ち場だと思うようになりました。
最近の我が家の応援は、ベンチの後ろだけではなく、アタリメ売り場にもあります。かっこいい応援かどうかは、自分でもよく分かりません。
ただ、今の次男に必要らしいものを買って帰る。
父親としては、そういう関わり方でもいいのだと、最近は思っています。