『野球を辞めたい』と言われた日
「野球なんか辞めてしまえ」
これまで、喧嘩の勢いで口にしたことがありました。それでも1年生で始めた野球を、1度も辞めたいと言うことはありませんでした。
けれど、本当に「辞めたい」と言われた日のことは、今でも忘れられません。
4年生になり、低学年チームから高学年チームへ上がったばかりの頃でした。練習の強度も雰囲気も変わり、求められるものが一気に高くなった時期。
そんなある日、息子が「野球、辞めたい」と言い出しました。
理由を聞いても、うまく言葉にできない様子でした。ただ「行かない」と繰り返すだけ。
どう声をかければいいのか分からず、私は戸惑っていました。本当は続けてほしい。でも、理由によっては辞める選択もあるのかもしれない。
その日はどうしてもユニフォームを着ることができず、コーチに休む連絡をさせるため、息子に電話を渡しました。
すると息子は「休みます」ではなく、「辞めます」と伝えたのです。
私は混乱しました。
その後、電話を代わった私にヘッドコーチが尋ねました。
「お母さんは納得してるんか。」
私は「まだ納得していません」と答えることしかできませんでした。
コーチは「高学年に上がる時にはよくあることだから、気長にいこう」と声をかけてくれました。
その後も野球の話をしようとすると、息子も私も感情的になってしまい、うまく向き合えない時間が続きました。
息子が初めてユニフォームを着た日の写真や、試合で活躍する動画を見返しては、しばらく涙が止まりませんでした。
頑張ってきたのは息子なのに、いつの間にか私自身も野球中心の生活になっていました。
『今まで母さんがどんな気持ちで応援してきたか考えたことがあるんか!』と大泣きしながら息子に叫ぶ始末。
しばらくチームを休むことになりましたが、息子はランニングや筋トレは続けていました。私自身マラソンが趣味なので、息子と一緒に走ることもありました。
そんな時間の中で、「野球そのものが嫌になったわけではないんだろうな」と感じるようになりました。高学年に上がり、思うようにプレーできない自分に戸惑っていたのかもしれません。
監督や仲間の声かけ、そして弟の存在にも背中を押され、息子は再びチームへ戻りました。
久しぶりに同級生とバッテリーを組んだ試合では、思わず涙ぐみました。しばらく行けなかったにもかかわらず、試合で復帰しないかとキッカケをくれた監督、そしてそれを受け入れてくれた選手たちには、感謝してもしきれません。バッテリーを組んでいた選手のお母さんもまた、涙ぐんでくれていました。
息子は今、また楽しそうにグラウンドに立っています。
辞めさせることが正解なのか、続ける選択が良いのかは、子どもによっても異なるし、選んでみなければ分かりません。息子の時も、辞めることや移籍することも真剣に考えました。
ただ、答えを急がず、息子が何を感じているのかを見ようとした時間は、無駄ではなかったと思っています。
再びユニフォームを着てグラウンドに立ち、今ではキャプテンとして意気込んで練習に励んでいます。
決して強いチームでもなければ、選手が少なくチーム編成も厳しい状況が続いています。それでもなんとか良いチームにしようと奮闘している姿は、とても誇らしく思います。
子どもの成長は、前に進んでいる時だけではなく、立ち止まっている時間の中でも育っているのかもしれませんね。
選択した道が正解となるよう、頑張っていきたいです。
同じように迷っている誰かにとって、この経験が小さな安心につながれば嬉しく思います。