道具選びは「心のスイッチ」選び
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道具選びは「心のスイッチ」選び

akiko

最新ギアの波の中で、息子が辿り着いた『道具の真理』

野球を始めたばかりのお子さんにとって、自分の「マイバット」を持つことは、ヒーローが武器を手にするような特別な瞬間です。 特に、守備よりも打撃に情熱を燃やすタイプの子にとって、バット選びは死活問題。私の息子もまさにそのタイプで、小学生の頃はバット一本で打席に入る時の顔つきが変わるほどでした。

しかし、いざ道具を揃えようとショップへ行くと、その進化に驚くはずです。かつて私の甥っ子が野球をしていた頃の知識は、今ではほとんど通用しません。ウレタンの厚みやカーボン構造など、近年のバットは驚くほどハイテクで、価格もそれなりに張るものです。

今回は、そんな変化の激しい世界で、母としてどう道具と向き合ってきたか。そして、大学野球まで続けてきた息子がいま見せている「意外な姿」についてお話しします。

専門的なことは任せ、母は「心の温度」を見る

まず実務的なアドバイスですが、バットには連盟やチームごとの細かいルールがあります。メーカー指定や仕様の制限は団体によって異なるため、スペックの詳細は、監督やコーチ、あるいは道具に詳しい旦那さんに任せるのが一番確実です。

そんな中で、私が大切にしてきたのは「そのバットを持つことで、本人のモチベーションがどれだけ上がるか」という一点でした。

どんなに飛距離が出ると言われても、本人が「これで打ちたい!」と直感で惚れ込んだバットでなければ、最高の一本にはなりません。「このバットなら、あのエースから打てる気がする」。そんな根拠のない自信を与えてくれる道具こそが、息子にとっての正解だと信じて、一緒にショップを回りました。

「道具への投資」は、親から子への「あなたの努力を一番近くで応援しているよ」というメッセージです。

主人とはバトルになることもありました。息子が感触がいい、と言っても、息子の体や振り方を考えたら、先調子がいいだの重いのがいいだの。本人は軽いのがいいと言っているのに、遠くに飛ばしたい主人(なぜ主人が遠くにとばしたいのでしょうか)は、重いバットをすすめます。

結果、主人に内緒でバットを買いに行ったこともありました。値段も主人が言うより高価なものを購入したこともありました。

今思えば、夫婦の意地の張り合いであって息子はそこまでこだわっていなかったように思えます。

成長の果てに届いた、息子からの意外な言葉

そんな息子も、今は大学野球のステージにいます。 あんなに道具にこだわり、色々な種類を試しては一喜一憂してきた彼が、最近、ふとこんなことを言いました。

「もう、そんなに道具にこだわらなくていいよ。お金もかけなくていい。チームバットから、自分が振りやすいものを探して使うから」

これを聞いたとき、私は彼の精神的な成長にハッとさせられました。 最新のギアを追い求め、道具の力に頼る時期を経て、彼はいつしか「自分の技術で、与えられた道具を使いこなす」という領域に手を伸ばそうとしていました。道具へのこだわりは、長い年月を経て、自分自身の体と技術への信頼へと昇華されていたのです。

親としては少し寂しいような、でもそれ以上に、たくましくなった背中を誇らしく感じる瞬間でした。

それでも贈ってしまう「相棒」

……と言いつつ、実は最近、大学での練習や試合を見据えて、新しい木製バットをプレゼントしてしまいました。 「もういいよ、あるものでやるから」と言われても、やはり頑張っている姿を間近で見ていると、母としては何か「相棒」を贈りたくなってしまうもの。結局、親心には勝てません(笑)。

息子は苦笑いしながらも、新しいバットを手に取って感触を確かめていました。その横顔を見て、道具というのは単なる「打つための棒」ではなく、今も昔も、親子をつなぐ一つのコミュニケーションツールなのだなと再確認したのです。そのあと、バッセンにつれていったのですが、そのバットを使いませんでした。「折れたら大変だから」と。

野球という長い旅は、これからも続く

小学生の頃に一緒に選んだバットから、今の「あるものを使う」という潔い選択、そして私がつい贈ってしまった木製バットまで。 振り返れば、道具選びの一つひとつが、息子の成長の足跡、家族の足跡、そのものでした。

野球を始めたばかりの今は、まだ何が正解か分からず、道具一つ選ぶのにも親子で迷うことが多いかもしれません。でも、その迷いや試行錯誤こそが、いつかお子さんが「自分にとって本当に大切なもの」を見つけるための糧になります。どうか、私たちのように夫婦喧嘩にならず子供の意見を尊重してくださいね。

そしてそれはきっと、野球の道具にとどまらず、大切なものへのこだわりにかわることでしょう。

息子が選ぶバットも、野球への向き合い方も、これからさらに変わっていくでしょう。 「道具にこだわらなくていい」と言えるほど強くなった彼が、次にどんな打席を見せてくれるのか。 

私たちの野球を通じた対話と挑戦は、まだまだこれからも続いていきます。

akiko