野球だけじゃない
「小学生で野球以外にどんなスポーツをしていますか?」
おそらく一番多いのは水泳でしょう。全身運動で肩が強くなり、心肺機能も鍛えられるので、どのスポーツにも役立つ万能な運動です。
わが家が選んだもう一つのスポーツは、想像とは少し違うものでした。
幼少期、息子は姉と一緒に3年間バレエに通いました。柔軟性を身につけるためでしたが、これは今でも本当に良かったと思っています。体が柔らかいことで、ケガ予防にもつながりますし、運動能力の土台が自然にできていきました。
その頃、小学校の担任の先生が言った一言があります。
「彼はパワーの塊。エネルギーの出口をなくすと、気持ちが行き場を失うよ。」
その言葉は、ずっと心に残りました。確かに息子は、スポ少を離れた時期には落ち着かない様子があり、体を動かす場所が必要なのは親としても痛いほどわかっていました。
そんな時、昔の同級生から「小学生に相撲を教えているよ。来てみない?」と声をかけられました。
息子は「絶対いや!」
夫は「おもしろそう!」
私は「とにかく動ける環境がほしい」
どうにか説得して、体験に行くことになりました。
相撲と聞くと“ただぶつかるスポーツ”だと思っていましたが、実際に体験してみて驚きました。
まずは四股。片足をまっすぐ上げるだけの簡単な動作に見えますが、体幹が弱いと体がぐらついてまっすぐ立てません。お相撲さんは100キロ以上の体を片足で支えるんです。しかも、あげた片方の足をかかとが耳に来るまで上げるんです。やってみて下さい。やればすごさがわかります。
次はすり足。中腰の状態でかかとを上げず、腕も使わずに前に進みます。見た目以上にきつく、スクワット状態で歩くようなものです。腕の振りが使えないし、かかとをつけたままなのでかかとの蹴りの瞬発力が使えないんです。これもやってみるとわかると思います。
そしてアヒル歩き。うさぎ跳びの形で土俵の周りを歩きます。絶対にはねてはいけません。やってみてくださいとは言いません。息子は「人生で一番しんどかった」と言うほどでした。
最後に「またわり」です。無茶苦茶はしませんが、軽く100キロ超えの人が乗ってきます。
そのほかもろもろの柔軟や体幹トレーニング。
まわしをつけるようになると、あの絹の硬くて細い帯を指でつかんでしっかり握らなくてはいけません。まわしをとる、というものです。恐らくとても握力がいると思います。
相撲教室では取り組みは少しだけ。あとはほとんど柔軟と体幹のトレーニングです。他にはサッカーやラグビーをしている子どももいました。週1回3時間の地味な練習ですが、確実に体が変わっていくのがわかりました。
教室の雰囲気は穏やかで、先生はいつも優しく見守ってくれました。
「強い子を作りたいんじゃないよ。折れない子を作りたいんだ。」
夜の練習は一切せず、無理な筋トレは絶対禁止。子どもの体を大切に育てる教室です。
松井選手も相撲をしていたそうです。とても強かったらしいです。
やがて大会にも出場するようになりました。緊張で息子の手が私の手が震えた日もありました。勝って嬉しく、負けて泣き、土俵の上で自分と向き合う経験は、本人の心を大きく育てました。
また、本気で相撲をしていたメンバーは相撲部屋に入っている子もいます。大学相撲をしている子もいます。学生相撲好きなら誰でも知っているような有名人。彼らの頑張りはネットや新聞で報道されています。形は違いますが、大きな刺激になりました。
相撲は逃げられないスポーツです。敬遠なんてありません。エラーをした瞬間負けです。
勝負の瞬間、2分もない戦い。体だけでなく心も試されます。その経験は、そのまま野球の打席の姿にも繋がりました。
- 土台があるからスイングにブレがない
- 握力が強く、バットを離さない
- 踏ん張りがきくから打球に力が乗る
- 100キロを超えてもケガをしない
どれも、土俵で培った力だと思っています。
もし、野球ともう一つスポーツを考えているなら、相撲は選択肢に入れてほしいスポーツです。目立たないけれど、派手じゃないけれど、確実に“強さの土台”を作ってくれます。
野球を支えるのは、道具でも練習法でもありません。
あの土俵で踏ん張った時間こそが、息子の体と心を支えていたのです。
練習量や技術だけが、子どもを育てるわけではありません。
勝てない日も、思い通りにいかない日も、悔し涙を流す日も。
そのすべてが、未来の強さにつながります。
今日も見守るお母さんへ。大丈夫、子どもはちゃんと育っています。
焦らなくて大丈夫。小さな積み重ねが、必ず力になっています。